「罠じゃん」
「罠だな」
「めっちゃ罠じゃん行くわけないじゃん」
「よく気づいたな」
「気づくわ、あんなんアホが思いつく理由だろ」
「行って返り討ちにしてやったら面白いと思うぞ」
「え、心配は?」
そんなものハナからないとでも言うように「はんっ」と鼻で笑う小田。薄情だ。やっぱり薄情だ。人間じゃないコイツは。
「小田も行こ」
「なんでだよ」
「ちょっとくらいなら彼氏待たせてもいけるって」
「絶対嫌だわ」
意地でも来てくれないらしい小田。ねばりにねばってみたが、とうとう「じゃ、明日報告よろ〜」と言いながら帰ってしまった。こいつ心ないのか。
このまま帰ってもいいのだ。どうせ先生いないし。ていうか職員室行ったらその体育の先生とやらがいるんじゃないのか。どう考えても呼び出した奴はバカすぎるし、これでのこのこ行く奴もバカすぎる。
「しょうがない、チラ見して帰るか」
私を呼び出した奴の顔は見ておきたいしな。
隠密機動と化し、もう生徒が帰ってしまって閑散としている廊下を歩く。だが、向かう先は体育館ではない。私が向かったのは、体育館がまるっと見える2階の渡り廊下。体育館の2階部分には窓があるので、1階からは見えなくともここからは中が見えるのだ。ただ、距離は遠いため双眼鏡が必要。
双眼鏡をのぞくと…あ、いるいる男が3人と女が2人。
あれ……今日の教科書事件のリカとレイナではい。誰だあれは。一応目に焼き付けておこう。どうせ鹿島杏奈の下僕かなんかだろう。それか、ただ単に噂を信じてて、天に近づく私が邪魔なだけか。天に近づきたいのは女だけじゃなく、男でもいっぱいいるらしいからな。
あーやだやだ物騒。鉄パイプなんか持っちゃって。殺す気じゃん。まぁそっちがその気ならこっちもその気でいくからな。
別に単身体育館に乗り込んでも良かったんだけどな。負ける気はしないし。ただ、やり返すならばもっと計画を練って盛大なザマァでお送りしたいのだ。今はその時期ではない。でも、売られた喧嘩だ、買ってやろう。
「いやぁ、双眼鏡常備しておいて良かった」
「なんで持ってんの」
「何があるか分からないからね」
「そんな奴いるかよ」
「いるよ〜」
…………えっ。
「えっ、誰」
「…」
「えっ」
「…」
「あっ」
銀色頭 の 羽賀愁 が 現れた!!!!
律 は 固まってしまった!!
