狂気のお姫様

「で、お前は俺の授業で教科書を忘れたんだよな。あ?まず何座ってんだ。立て」


先生に凄まれて、泣きそうな顔で立つ安西さん。


「何か言い訳はあるか」


先生がそう言うと、安西さんは、


「昨日絶対机に入れて帰ったんです…」


と弱々しい声で呟いた。


「あ?じゃあ誰かが盗ったってのか?おい、コイツの教科書盗ったやついるか?」


安西さんの言葉に、子供騙しの言い訳だとでもいうようにハンッと笑いながら生徒たちを見渡す。


「あ、あの、東堂さんが昨日最後まで教室に残ってました。なんだか怪しい動きをしてたような…」


急に自分の名前が出てきて、少々驚く。それを言ったのはターゲットのうちの1人だった。

先生は私の方へ向く。


「東堂、今の話は本当か」


まさか本当に誰かが教科書を盗んだのか、とでもいうような視線をこちらへ向ける。まあ、怪しい動きをしてたのは本当のことだが、それはわざわざ言わない。

「確かに昨日最後に教室を出たのは私だったと思いますけど、怪しい動きなんてしてませんよ…?それに私自分の教科書持ってますし、安西さんの教科書なんてとりませんけど…」

困惑したように首を傾げると、もっともだ、というように先生も頷く。

安西さんの方をチラリと向くと、ギロリと私を睨んでいる。昨日私を罵った仕返しに私が教科書を盗んだと思っているようだ。いや、あながち間違いじゃないけどさ。


「でも私、本当に昨日机に入れて帰ったんです…。ねぇ、見てたよね?」


そう安西さんに聞かれた女の子は、いつも彼女と一緒に帰ってるようだ。「私も見てました」と言って安西さんを擁護する。

ターゲットの2人は、思わぬハプニングにほくそ笑んでいる。うまく私を犯人にしたてあげるようだ。ていうか、自分たちが盗んだはずの教科書を私が持っていることに違和感を感じないのか。


「やっぱり、昨日最後まで残ってた東堂さんが怪しいと思います!!もしかしてその教科書、安西さんのじゃないんですか?」


ターゲットのうちの1人はそうキッパリと言い張り、まるで名探偵のように振る舞う。あぁ、滑稽。

奴らは確信しているだろう。今私が持ってる教科書は安西さんのだということを。だって昨日、確かに私の机から盗んだのだから。

ただ、盗んだ教科書は本当に私の教科書だったのだろうか。


「東堂、教科書見せてみろ」


教科書を見せてみろ、と言われても、別に名前をかいてるわけじゃないから誰のかなんて分からない。中に書き込みしてる部分は少なからずあるので、文字を照合してくれさえすれば私のものだと分かるはずだが。

だけどそんな面倒なことはしない。

だから、今リモコンのボタンを押した。

さぁ、踊ってくれよ。