狂気のお姫様

「つれた」

次の日、案の定昨日机に入れていた教科書がなくなっていた。

「なに?」

「いや、教科書とられた。古文の」

「うわ、やること幼稚」

「ね」


私は教科書が消えたことに気づかないフリをして、1限目の準備にとりかかる。


「2限目古文じゃない?」

「そだね」

「大丈夫なの?古文の先生鬼じゃん」

「だいじょぶー」


小田は余裕そうな私に少し戸惑っているようだが、先生が鬼であろうがなんだろうが、乗り切れるから大丈夫なのだ。ちなみに他のクラスの子に借りるなんてことはしない。

そうこうしてるうちに1限目の授業がはじまった。私の席は1番後ろだし、この社会の先生の授業がゆるいということは把握済み。

バレないようにイヤホンをセットし、携帯を横向きにして作業をはじめる。時々小田をツンツンつついて起こしながらも、作業の手は抜かない。こういうチマチマした作業が意外にも好きなのである。


『────』


イヤホンから聞こえてきた言葉に、ニヤリとほくそ笑んだ。



1限目が終わると、1人…2人、どこか楽しげな雰囲気を出している奴ら。2人か。まぁ、予想通りだ。

2限目、古文の先生が教室に入ってくると地味に緊張が走る。忘れ物とかに厳しいもんね。ニヤニヤしている人が2人と、案の定、顔を青くしている人が1人。


号令を終え、授業がはじまる。生徒が席に着くと、先生は教卓から教室内を見渡して持ち物チェックをするのだ。

そしてあるところに目を止めた。勿論それは私ではない。


「おい、安西、教科書はどうした」


それは、昨日すれ違いざまに私を「糞ビッチ」呼ばわりした女だ。先生の言葉に、顔を青くしながら下を向く。この先生、若い頃結構ヤンチャしてたみたいで、普通の不良じゃ全然歯がたたないらしい。だから鬼だのなんだのと呼ばれてるんだとか。


「安西以外は、みんな教科書持ってきてるな」


その言葉に、ターゲットの2人は驚いた顔を見せた。

あーあ、そんな顔したらバレちゃうよー?と思いつつ、それは顔には出さない。ちなみにこのターゲット2人は、昨日私にわざとぶつかってきた奴ら。

そんな顔したって、君たちが昨日の放課後盗んだの、私の教科書じゃないんだから。