狂気のお姫様

次の日から、ある噂が飛び交うようになった。

『東堂律が鹿島杏奈を天に近づけさせないようにしてる』と。

小田から聞いたときには結構なカルチャーショックを受けた。何がどうなってそんな噂になったのだ。

なんでも、鹿島杏奈は『律ちゃんが自分の悪口を天に言ってる』と主張しているらしい。だから天の人たちも自分に素っ気なくしているのだと。

正直、意味が分からない。悪口なんて言ってないし、なんなら穏便に事を進めようとしていたのに。

廊下で四ツ谷鳴や長谷川蓮と会った時も、購買で陽ちゃんたちと会った時も、周りの人たちは話を聞いていたはずなのに、噂は尾ひれをつけて一人歩きしているようだ。いや、一人歩きではない。鹿島杏奈が噂を操っているのだろう。よくもまぁそんなホイホイ嘘を重ねられるものだ。信じる奴も信じる奴だが。


「仕掛けてきたねー」

「こんな噂信じる?」

「鹿島杏奈信者は信じるんじゃない?」

「それはそうかもだけど。はぁ…どんだけ信者いんの」

「洗脳うまいからな鹿島杏奈」

「所詮小物のクセして」

「あ、こわーい、今のこわーい東堂ー」


机に頬杖をついて毒を吐く私の髪の毛を、小田がせっせと三つ編みにしながら遊んでいる。器用だよな小田。


「焦ってないね東堂」

「まぁ、やられたらやり返すからね私も」

「こわ。何を仕掛けるつもりですか東堂さん」

「内緒。もう少し泳がせてからかな」

「逐一報告おなしゃす」

「へいへい。あ、小田、自衛はしてよ」

「え、心配してくれるの?大丈夫。逃げ足は早い。いざとなったら東堂置いて逃げる。目もくれない。むしろ友達であったことも遡ってなかったことにする」

「あれ?おかしいな。なんでこんなのと友達やってんだろ?」



普通に小田と話してるが、正直教室の視線が痛い。一部の人たちからだけど。噂を信じてる人と信じてない人に分かれてるみたいだ。