狂気のお姫様

「もういい」

佐々木夕はそれ以上何も言わなかったが、許してもらえたと思ったのだろう、鹿島杏奈は佐々木夕から離れてまた四ツ谷鳴に話しかける。

「そういえば、今度屋上にご飯食べに行きますね!」

その言葉に驚いたのは、私たちだけではない。さすがにその言葉には四ツ谷鳴たちも驚いているようだ。しかし周りの反応はそんなに大げさではない。何せ、特別な鹿島杏奈なのだから。


「は?なんで?」


それに反応したのは陽ちゃんだった。今まで喋ってなかったが、怪訝そうな顔を浮かべる。

鹿島杏奈は分からないとでもいうように首を傾げた。


「私、みんなでご飯食べたいなぁって思って…。あ、それにお弁当も皆の分作ってきますよ!」

少し頬を膨らませて顎の下で拳を握る鹿島杏奈。取り巻きたちも自慢げな顔で3人を見つめている。


「屋上には来ないでね?」

「え?なんでですかぁ、鳴さん」

「逆になんで来れると思ったの?」

「???みんなで仲良く食べたほうがおいしいですよ?」


全く話が通じていない。やんわり拒絶されているのにまだ分からないのか。天然を演じすぎてこっちもイライラする。


「別に俺らお前と飯食いたくねぇんだけど」

「え!ひどい……」


冷たく突き放したのは佐々木夕だった。鹿島杏奈はその返答に目を潤ませる。取り巻きたちも予想外だったのか、少しだけ焦っているのが分かる。

鹿島杏奈は四ツ谷鳴をチラリと見るが、佐々木夕と同意見なのか、ニコニコ笑っているだけだ。


「このまま断罪してくれ」


小田がボソリと呟くが、それでは諦めなさそうだ。とっととどこかへ行ってくれ~、と思いながら見ていると、


バチッ


佐々木夕と目が合った。


「やばい、小田、逃げ…」

「律ちゃんじゃーん!!!!」

「オワッタ」


みんなが見ている中、佐々木夕にガシッと腕を掴まれる。


「はは、ども…」

「購買?あ、君が小田ちゃん?」

「あ、はい」


さっきとは明らかに違うテンションで私たちに話しかける佐々木夕。鹿島杏奈よりも私たちと仲が良いことが窺えるだろう。

チラリと鹿島杏奈を見ると、驚いたように目を見開いていたが、すぐに演技を再開させた。


「え!夕さんも律ちゃんと仲良いんですかぁ?」

「律ちゃんあれから彼氏できたー?」


しかし佐々木夕は無視である。鹿島杏奈など存在しないように私に話しかける。やめてくれー。


「いやぁ、できてないですよ」

「え、告白されてるのに?」

「なんで知ってるんですか。まず私好きな人出来てないので~」


適当にヘラヘラ笑いながら返すと、


「律は俺のこと大好きだろー?」


と、陽ちゃんもノッてきた。やめれ。ほんとにやめれ。

無視されている鹿島杏奈はまだ諦めていない様子で、「陽介さんも仲良いんだぁ」なんて言っている。話の輪には入っているが、話には入れていない状態。誰か相手してやれ。


「なんで陽ちゃんのこと好きになんの。てか時間ないし私もう行くので~」


そして佐々木夕が爆弾を落としたのである。

「えー!律ちゃん行っちゃうの!屋上おいでよ!」