狂気のお姫様

頭が真っ白になって、その後の記憶がないけど、鼻の奥に愁さんの匂いが残っていて、あぁ、あれは夢じゃなかったんだと思わせる。


気づいたら屋上を降りていて、気づいたら教室の前まで来ていて、気づいたら目の前に小田がいた。


「東堂いきなり消えるからビックリしたぞ」

「そう……だな」

「どうした?」


呆然と立ち尽くす私に、さすがの小田も怪訝な顔を浮かべる。


「私ここにどうやって戻ってきた?」

「は?歩いて?」

そりゃそうだ。歩き以外ないだろうな。


「どうしたんだよまじで」

小田は私の目の前で、パタパタと手をちらつかせる。

「なんか、破壊力がすごくて」

「んお?おお……?」

「どうでも良くなった」

「……おお……?ん?良かったな?」


とりあえず理解しようとしてくれているのか、凄まじく変な返答をする小田を無視し、自分の席に座る。


「どうでも良くなったわ」

「さっきも聞いたな。何がなのか分からんが良かったな…………?」

「本能って大事だよな小田」

「……おお。ちょうど本能の赴くままに行動するやつらが周りにいるしな」

「悩んでる暇があったら行動すりゃいいんだよな」

「な、悩むことも大事だぞ?」

「フィーリングで勝負だ」

「あ、こいつ人の話聞いてねぇな」


とりあえず、帰ってジローさんに話を聞くこと。

陽ちゃんは、目を覚ますまでみんなに任せること。やつは頑丈だから絶対大丈夫。

ついでに佐々木夕も、あれも大丈夫だ。なんか黒髪に肩車されてたらしいし。元気じゃねえか。

生憎、身体は今結構できているので、ジローさんに何を言われても動ける状態にはなっている。

くよくよすればするほど、底に落ちていく感覚になる。見えるものも見えなくなりそうだ。



「うん。千秋ちゃん見かけたら殴ろう」

「えっと……えーーーっと……よく分かんないけど、千秋ちゃんさん、逃げて」


失礼だな。

これは私が今まで無駄に悩んで不安になった分のおかえしだ。

敵かどうかなんて分かんないけど、殴りたいんだもん。


「よし」

「いやなんか決意固まっとるなこいつ。怖いな」


失礼だな。

さぁ。

戦う準備はととのった。

自分の心次第だもの。

自分の中の狂気が、ゆらり、揺れた気がした。