狂気のお姫様

どんな時でも、東堂であることに安心感があった。

だからこんなに眠れない日が来るなんて、思ったことがなかった。


「なんか今日の東堂、クマすごくね」

「眠れなかった」

「珍しい」

「眠い」

「授業中眠らないで有名な東堂が」

有名にはなってないわい。


「でもさ、如月さん、ほんと心配だね」

「うん」


小田には、陽ちゃんのことはサラッとだけ伝えてある。どうせ佐々木夕は知ってるから天のみんなにも伝わるだろうし、誰かが小田に言いそうだからだ。

ただ、他の人たちは、陽ちゃんがなぜ長期で休んでいるのかは知らない。そこの情報はジローさんがうまいこと学校側とやりとりをしたらしい。抜かりない。


「佐々木さん、骨折だって、アレ」
「喧嘩?」
「佐々木さんを骨折させるやつって誰なんだ」
「長谷川さんが肩車してたよな」


最後の言葉は置いておいて、佐々木夕の骨折の話もあれよあれよと広がっているらしい。


「佐々木さん、そんな状態悪いの?」

お菓子を食べながら頬杖をつく小田は、まだ骨折している佐々木夕と遭遇していないらしい。

ていうかまったく心配してないなこいつ。


「んー、どうだろうね。回復力だけは高そうじゃん」

「間違いない」

「でも、一応昨日会った時は、ちょっと落ち込んでるように見えたかも」

「えー、あの佐々木さんが?」


眉間に皺を寄せ、有り得ない、という表情の小田。

こいつまじで心配してないな。


「でもさー、長谷川さんとかさ、仕返しじゃーって言いながらカチコミそうだけどね」

恐ろしいことを言うな小田。


「そこまでアホじゃない…よね?」

「いや、アホでしょ」

長谷川蓮のこととなると辛辣だなこいつ。


なんだか、小田と話していると、悩んでいるのがバカらしくなってくる。

学校でいる時と、家でいる時と、環境は違うけど、どうしても友だちといる時に気が抜けてしまうのだ。


「東堂が今日おねむだから、私がノートとってやるよ」

「それだけは絶対期待できない」

「なんでだよ!」

「それは自分が1番理解してるだろうが」

「は?私寝たことないが?」

「捏造されてんな記憶が」



そしてそんな時に限って、現実に引き戻されるんだ。

♪♪♪

「…」

「東堂、電話か?」

「ちょっと出てくる」

心臓がバクバクと音を立てる。


「はい」

相手は、言わずもがなジローさんで。

私が学校の時にかけてくることなんて、緊急時以外ないのに。


[律、落ち着いて聞け]

「うん」

[佐助が消えた]

「…っ」

ひゅっと喉が鳴り、目の前が真っ暗になったのが分かった。