狂気のお姫様

何本もの透明な管と、包帯。

青白い顔には呼吸器がつけられ、ベッドに横たわる陽ちゃんは、ピクリともしない。


「…」

「おぉ律、来てくれたか」

「京くん」


ベッドの傍らには、陽ちゃんの父親であり、東堂の組員の京くんが疲れきった顔で座っている。


「京介、陽介の容態は」

ジローさんも空いている椅子に座る。


「安定してます。あとは目を覚ますだけです」

その言葉に、ジローさんはホッとため息をついた。


「律、そんな泣きそうな顔をするな」

「…」


陽ちゃんのそばに寄った私の頭を、京くんは慰めるように撫でてくれる。

あぁ、この前までは鬱陶しいくらいに元気だったのに。

安定しているとはいえ、いつもと違う陽ちゃんの姿に、明らかに動揺してしまう。





頭の中を、いくつもの「なんで?」が埋め尽くす。

関係ない人を巻き込んで、何が楽しいのか。

なんの大義名分があって…、何を理由に傷つけるのか。

なんで?

…なんで?

……そっちがその気なのであれば、こちらも容赦はしない。

そうでしょう?



ザワザワと、心の奥底で何かが蠢く。

それに抗わないのは、私が狂っているからか。




「律」

ふと、ジローさんが私の腕をひく。


「…」

「飲み込まれるな」

「…」

「いいか、お前だけの喧嘩じゃねぇぞ」

「…」

「待て」

「はい」


ジローさんの言葉に、意識がしっかりと浮上する。

飲み込まれそうになったとき、私にはいつだって、手を引っ張ってくれる人がいるのだ。

これは遊びではない。

闇に身を任せてうまくいくほど、簡単なことじゃない。

私なんかより、みんなのほうが、頑張って、今この瞬間も踏ん張ってるんだ。



ガラガラ

ふと、病室のドアが開く。


「おー、ジローに律、来たか」

入ってきたのは、いつもの如く着物姿のさっちゃん。


「佐助、終わったのか」

「おお。でも聞けることなんざ何もないぞ。ただ後ろに乗っていて、轢かれただけだ」

「そうだろうな」


さっちゃんは、「煙草吸いてぇなぁ」と窓際にもたれかかる。


もしかして、


「佐々木夕のこと?」

「おお、そうだ。意識がしっかりしてるからな。治療が終わってすぐで悪いが、話だけ聞いてきたとこだ。律も友達か?」

「うん、知り合い」

「隣にいる。行ってやれ」


陽ちゃんが咄嗟に庇ったおかげか、右足の骨折だけで済んだらしい。ヘルメットのおかげで脳に以上もないようだし。


…きっと、私がいない隙に今後の話をするんだろう。

3人とも、仕事の雰囲気で、居心地が悪い。


「ちょっと行ってくる」

陽ちゃんを一瞥し、病室を出た。