狂気のお姫様

なんで?

なんで陽ちゃんが?

小田に早退することを伝え、教室を出る。

私の顔がよっぽど切羽詰まっていたのか、小田は何も言わず見送ってくれた。


「ジローさん!!」

「このまま一旦、陽介んとこ行くぞ」

「どういうこと?何があったの」


車に寄りかかり、紫煙をふかすジローさんの目の下にはクマが見える。最近ずっと忙しそうにしていたところで今回のことがあったため、ジローさんの疲労は計り知れないだろう。

助手席に乗り込むと、ジローさんはエンジンをかけた。


「陽ちゃん無事なの?」

「命に別状はない」


その言葉に心底ホッとする。


「でもなんで?家にいたんじゃないの?」

「熱は下がってたし、昨日のことをうけて、今日は遅れて学校に行くっつって」


何気に責任を感じていたのだろうか。陽ちゃんなりに。


「組関係?」

「そうだ」

ジローさんは、私の質問に淡々と答える。


でもなんで陽ちゃんを…?

陽ちゃんは組員さんの息子っていうだけで、組には関わりがない状態だ。表向きには、だが。

将来東堂に入るつもりなのか、ジローさんとどこまで話しているのかは分からないが、限られた情報は陽ちゃんにも下ろされている。若い頃から経験を積むに越したことはないから。

組員でもないし、ジローさんと血縁でもない陽ちゃんを何故狙う…?意図が分からない。


「友達と待ち合わせしていたらしい」

「え?」

「後ろに、『佐々木』という男の子が乗っていたらしく、2人とも車に飛ばされた」

「………佐々木夕!?」

「お前とも知り合いか」

「うん、でも、え、なんで…?」


確か、長谷川蓮が佐々木夕を探していた、と小田が言っていた。

大方、寝坊したか何かで陽ちゃんを足に使ったのだろうが…、組にまったく関わりのない一般人がいるのに何故…。


「佐々木夕も無事なの?」

「陽介が庇ったらしい。その子は骨折したようだが、意識はしっかりしていて、同じく病院にいる」


あぁ、陽ちゃんのことだから、轢かれる瞬間にも、組関係だと分かったんだろう。狙われる意味が分からないにしろ、関係のない佐々木夕を瞬時に守ろうと判断するところは、正直尊敬に値する。


「律、その佐々木って子、華奢だそうだな」

「…」

「あと、2人とも、ちゃんとヘルメットをつけていたそうだ」

「あぁ…、そういうことね」

「断定はできないが」


ジローさんの言葉に、唇を噛む。



相手が狙っていたのは、


「私か」