狂気のお姫様

『──残り、10分です』

またもや、音割れしたアナウンスが耳に響く。

僅かしかない残り時間に、騒然とした校内、それとは裏腹に冷静な頭。

先程のプチ拉致からすぐさま解放された私は、何事もなかったかのようにまた走り出した。

正直、あれだけの言葉で理解する私もすごいと思うが、それで理解するだろうと思えるあちらも、さすがと言ったところか。後ろから引っ張られたので、姿は見えていないというのに。

体育祭中、携帯なんて持ってないからこうせざるを得なかったのだと思うけど。

すぐに解放したのは、私たちの接触をバレないようにするため、か。普通に話してるぐらいは特に支障はない気がするけど……、まぁ、何かあったのだろうな。

でもまさか高校の体育祭に乗り込んでくるなんてこちらも思わないじゃないか。普通に不法侵入だと思うが。

黒髪ツーブロックねぇ…。


「いっぱいいると思うんですけど」

もっと分かりやすいところはなかったのか。

とりあえず残り時間が少ない。そろそろ運動場に戻ろう。

周囲をうかがいながら、小走りで運動場へ向かう。校内はなんとも言えぬ地獄絵図で、教師たちは本当にこれでいいのか…?と聞きたくなるほどだ。

一年に一回は日々の鬱憤を晴らさせてやろうという気概を感じられるが、日々の鬱憤はその日のうちに大体晴らしているのがここの生徒だと思う。残念ながら。


「あ、小田」

「あ、裏切り者コノヤロウ!!」

運動場に戻る途中、生き別れた小田に奇跡的に遭遇。

「ブジダッタカ、シンパイシテタゾ」

「嘘しか言わねぇな」

もはや忘れてたわ。

「バツ持ってる小田が悪い。ていうか、本当に無事だったんだな」

「忠犬がいたからな」

「いい仕事する犬だな。で、その忠犬は?」

「あぁ、ちょっと囮にな」

私も人のことは言えないと思うが、お前も大概だと思うぞ小田。


「元はと言えば東堂が!!」

「いててて」

小田に殴られながら廊下を走る。

もう競技も終盤だからか、みんな運動場へ向かっているようだ。


「私だっていろいろあったんだからさー」

「なんだよいろいろって!!」

「銀髪にバツすり替えられたり」

「えぇ…」

「そのあと小型犬に追いかけ回されたり」

「おお…」

「そのバツを金髪のとすり替えたり」

「うわ…」

「そのあと陽ちゃんに拉致られたり」

「なんで???」

それは私も聞きたい。

注意深く周囲を警戒しているものの、お目当てのツーブロックは見つからない。


「参考までに聞くけどさ」

「なに?」

「…いや、なんでもない」

「なんだよ」


黒髪ツーブロックの人っていたっけ、と聞こうと思ったが、小田に聞くのはあまりよろしくないな。いかんいかん、場所が学校なだけにやっぱり気持ちが緩んでいる。

なんのために陽ちゃんがプチ拉致をしたのか。

お遊びではないのだ。

これは情報戦。どこで誰が聞いているか分からないし、用心しておくに越したことはないのだから。


「いや、私がすり替えたバツ、どこまでいったか知らないかなと思って」

すかさず違う話を持ってくる。

「そういえば、四ツ谷さんが如月さんに捕まったって噂は流れてきたかも」

「何それめっちゃ面白い」

「すごい叫び声だったらしい」


ということは、私と会った、いや、拉致したあとに鳴さんを捕まえたのか。どういうポテンシャルなのあの人。