狂気のお姫様



「撒いたって……、何人に追いかけられてたんですか」

なんだかちょっと恥ずかしくなって話題を変える。

「え、夕」

「ん?」

「夕とか、その他諸々」

「え、あの性悪チビ?」

「え?」

「いや何でも」

やっば。あぶな。息をするように悪口言ってたわ今。

「夕、しつこかった」

「でしょうね。いやいやいや、ていうか絶対ここで油売ってる場合じゃないでしょ。撒いたって一体どこで撒いたんですか」

「中庭らへん?」

「……すぐそこじゃないですか!!!」

「そろそろ来るかな」


勘弁してくれ!!

ていうかもっとはよ言え!!!!

あの性悪ドチビクソ野郎が来たら絶対大変なことになる。バツでもバツじゃなくても絡んでくる可能性大、いや、特大だからだ。奴が敵チームだと知った瞬間、絶対見つからないでおこう、と決意したのに。


そんなことを思っていると、嵐は来るってもんで。

「あーーーー!!!ミッケ!!!!!」

この声は。

「あ!!!律ちゃんもいるーー!!!」

はい終わった。

「やべ」

と、走り出したのは愁さん。

一歩遅れて愁さんを追いかける形になってるのは私。

数メートル向こうの廊下から、性悪チビ、もとい佐々木夕がたくさんの輩を引き連れて走ってくるではないか。

怖い。怖すぎる。

もうあの集団が、佐々木夕の仲間なのか、佐々木夕を追っているのかも分からない。

最悪だ。



「なんで私までーー!!!」

「律あいつらやっつけて」

無茶言うな!!!!!!!

「無理ですよあんな闘牛たち!!!」

「いけるいける。ついでに夕も」

あんたら友達だったよな???


あぁ、本当に最悪だ。1時間ゆるゆる過ごそうと思ってたのに。いい隠れ場所を見つけていたのに。せっかく小田を撒いたのに。せっかく小田を犠牲にしたのに。



「どうしてくれるんですか!!私バツじゃないのに!!」

銀髪の背中に思わず悪態を投げつける。

すると、銀髪は半分だけ振り返り、少しだけニヤッと笑った。

「え、なんですかその顔」

「律、あとはよろしく」

「え?」


愁さんは走るスピードをあげて、どんどん私からも距離を離していく。

速いってば。待ってよ。

ていうか、私より、逃げなきゃいけないのは、バツを持ってるあんたじゃ……、

あとは、よろしく?


「…………まさか!!!!!」


気づいたときにはもう遅い。

ズボンの後ろから出していたハンカチを確認すると、さっきまでなかったバツ印が見える。


あいつ!!!やりやがった!!!!!


「あれーーー!!!律ちゃんバツ!!???」

後ろから聞こえる声は嬉々としていて。

「さいっあく!!!!!!!」

人生最大に叫んだかもしれない。