狂気のお姫様


「愁さんてそっち関係の人なんですか?」


意を決して聞いてみる。

オーラといい、強さといい、普通の人ではない気がしていたので、お家がそちら関係なら合点がいくのだ。


「違うよ」

「ほんとに……?」

「ほんとに」


うーん、嘘を言っているようではなさそうだけど……。

陽ちゃんも特に、愁さんが組に関係するとは言ってなかったもんな。



「へぇ……、の割にめっちゃ強いですよね」

「んー。センス?」


うざ。

危ない口に出すところだった。

しかしそんな軽口も様になるのだから、イケメンってほんとに得してると思う。


「それで成瀬組と知り合いなんですか?」

「さぁ、知らない」

まだしらを切るのかこいつは。


「でも」

愁さんの目の奥が怪しく光ったような気がした。


「でも……?」

「あいつはダメ」

「え……、ダメなんですか。ていうか絶対知ってるじゃないですか」

「ロリコンかよ」

「それは小田も言ってました」

「気持ち悪い」


今日はよく喋るなぁ。

それにしても愁さんが悪態つくなんて、どんな人なんだろうか。少し気になる。


「どんな人なんですか?」


興味本位で聞いてみる。

が、それが間違った選択肢だと思いらされたのは、一瞬だった。




「ダメだよ」

「え」


目の前で胡座をかいている男の右手が、壁を背に縮こまっている私の首に伸びてくる。

あ、避けられない。

と思ったのは一瞬で、愁さんの右手が私の首にかかった。


息が止まる。



「律は俺のでしょ?」


銀髪は、妖艶に笑う。


「ダメだよ。他の男見ちゃ」


逃げられない。

私の本能が、私自身にそう告げる。



「な、んなんですか…それ」


一瞬だけ息がつまり、喉から声を絞り出す。

体の熱が一気に顔に集中したのが分かった。


「あれ、照れてる?」

「やめてください」

「律?」

「うわーーー、離れてください」

「やだ」

やだ、じゃないよ。

ていうか照れるもくそもへったくれもない。こんな綺麗な顔が近くにあったらそりゃ赤くなるに決まってる。


「律、その顔、他のやつに見せちゃダメだよ」

「これはもう、愁さんのせいです」


あんたの顔面は国宝級、いや、世界遺産級なんだよ。そんじょそこらのイケメンが接近してくるのとは訳が違うのだ。


「……」

「……なんですか」

「煽ってんの?」

「滅相もない!!!!!」


何がどうなってそうなる!!


「なーんだ」

「ほんと、心臓に悪いんでやめてください。そして離れてください」

「えー」

えー、ちゃうがな。早く離れろ。


「今日だけね」

「いろいろツッコミどころが多いんですけど……」


あぁ、何がどうなってこうなったのか。

なぜかこの人からは逃げられない気がする。



「律、早く帰ってきてね」


本当に、心臓に悪い。