「なんでわざわざ東堂に……」
「ウチの戦力を少しでも削ぐため……あるいは戦力数を知るため。が、小物の荒木がウチに手を出してくるのはおかしい。裏がいるので間違いはないだろうな」
この界隈は、大きな変動が起きることはまずない。大きな勢力は大きな勢力なまま、それが受け継がれていくので、ちゃらんぽらんな奴が長にならない限りは崩れることはないのだ。
しかしその均衡を破ろうとする輩が存在するのも事実。下克上だ。だが、出来上がってしまっている巨頭を引きずり下ろすなど、簡単ではない。
「ウチを狙ってるの?」
「さぁな。それは分からん。調査中だ」
ジローさんの顔がそんなに深刻ではないので、大丈夫なのだろう。
「でも、なんで成瀬組が手を出したの?」
「そこなんだよ」
ジローさんが大きなため息をつく。
「あれは謎だったが、若頭の力を見せるため、という結論で終わったんじゃなかったのか」
さっちゃんが顎に手を置く。
「俺もそう思ってたさ」
組を引き継ぐ、長が変わる、ということはこの界隈では大イベント。成瀬組の若頭も、いずれは組長になる人物。その力を今のうちに他の組に見せつけられれば、下手になめられることもないし、前組長のときと同様、良好な関係を結んでいける。
それに、荒木という小物ごときにわざわざその腰をあげなければならなかった東堂からの印象も良いだろう。
だけど、今のジローさんの話を聞く限り、それだけではないらしい。
「律」
「え、なに」
ジローさんが私に向き直る。
「先に言っておくが、最善は尽くした」
「え、え、なんの」
「うちの娘は破天荒で、猪みたいなアホだと、俺は何回も伝えた」
「え、サラッと悪口言ってない?え、待って。それ誰に言ったの」
さっちゃんはもう勘づいた様子。待って。置いてかないで。
「律」
「な、なに」
さっきまでそんな深刻な顔してなかったのに、荒木の話よりも真剣な表情をされると、何を言われるか怖すぎるんだけど。
「縁談だ」
「は?」
「成瀬の若頭が、お前と会いたいそうだ」
は????
