狂気のお姫様

さて、今までどれだけの馬鹿どもを操ってきたのだろうか。

先程鹿島杏奈に叫んだ男はもう体力の限界なのか、ひゅー、ひゅー、と不吉な音を立てながらぐったりと倒れ込む。あら可哀想に。


「律ちゃん、おかしいよ……」

おかしい?

どうやら鹿島杏奈は自分のことを棚にあげるらしい。


「何が?」

「おかしいよ!血だらけの男の人2人を引きずってくるなんておかしいに決まってる!!」

あぁ、これね。

まさか私が喧嘩ができると思ってなかったのだろう、鹿島杏奈は心做しか顔が青いし、周りのオーディエンスたちも絶句している。


「私、強いから」

「……は?」

奥では陽ちゃんが「それでは伝わらんだろ」とかなんとか言ってるが、男2人をぎったんぎったんにできたのは、私が強いから、という理由しかない。それ以外の何物でもないではないか。


「あんたが寄越してきた男たち、律儀に私を襲おうとしてきたけど、弱すぎて話にならなかった。それだけだけど、何?」

「私が寄越した?何を言ってるの?」

「逆に何言ってんの?あんたがしたこと、バレてないとでも思った?私のありもしない噂流したのも、いろんな奴に私を殺るよう仕向けたのも、西城の族使って私たちのこと拉致させて天のこと潰そうとしたのも、ぜーんぶ、あんたの仕業って分かってるから」


私がそう言うと、周りは騒がしくなる。

西城の族といえば、空郭しかないからな。自然と天を潰そうをしたのだと、彼らに牙を向いたのだということが分かるだろう。


「そんなこと!天を潰そうとなんてしてない!!」

「ちなみに、やってないやってないって言いそうだったから証拠も掴んでみました」

「…は?」

鹿島杏奈の顔からは、完全に焦りが見えていて滑稽だ。私が何も用意していないとでも思ったのか。


「蘭ちゃんカモン」

「はーい」


間延びした返事が聞こえてきたかと思うと、お馴染みグレーの髪にメガネの男が人混みから出てくる。

「え、蘭くん?」

ここで何故蘭が出てくるか分からないだろう。

が、彼は私に届け物をしてくれただけだ。


「どぞ」

「ありがとう」



それは、西城、そして空郭の頭、仙道の携帯だ。


「なに、なんなの」

「これ、西城の仙道の携帯」


私がそこまで言うと、鹿島杏奈はサッと顔を青くした。


「仙道って…」
「西城の頭の名前だよな」
「どういうことだよ」
「え、鹿島さんが天に喧嘩売ったのか」
「そんなわけないだろ」
「でもさっき羽賀さんが鹿島さんを…」


自分の言葉で周りがありとあらゆる空想を広げる。人の目と口はいつだって怖いものだ。


「私を嵌めようとしてるんでしょ!ひどい!ねぇ!誰か助けて!!」

証拠が何か、はこの女も分かっていないとは思うが、自分に不利なものということは理解したらしい。先程から何も言わないオーディエンスたちに助けを求める。


「ねぇ!!」

あーらら。

鹿島杏奈は取り巻きたちの姿を見つけると、「律ちゃんが私のこといじめてたの、みんなも知ってるでしょ!?」と根も葉もない戯言を吐く。