狂気のお姫様

【side 如月 陽介】


「何言ってるの??」

落ち着いた様子の小田にそう冷静に言い返す鹿島杏奈は、自分の状況を分かっていないらしい。


購買に行く途中、ほとんどの奴は遠巻きで見ているのに、そんなのはものともせずに話しかけてきたこの女。

昨日の今日でこうもよく仕掛けてくるものだ、と思ったが、一応律の獲物なので昨日のことは口には出さない。

俺たちがあんな小物の族に殺られるわけがないし、律と小田をやるついでに俺たちに族を潰させて証拠隠滅しようとした、といったところか。


『あの、律ちゃんのことなんですけど…』

そう話し始めた鹿島杏奈に、他の4人がどう思っているのかは分からないが、どうせ話の内容はデタラメ。


そんな折、小田が現れたのだ。

髪も乱れてるし、制服も少し汚れていて様子がおかしかったが、愁の一言で冷静さを取り戻したみたいだ。


「全部、知ってるから」

「奏見ちゃん?」

「軽々しく名前で呼ぶな。気持ち悪い」


おい小田、律化してないか。

隣で「ぶほっ」と笑い声が聞こえたかと思うと、夕が蓮の背中を叩いて笑ってやがる。

が、鹿島杏奈に暴言を吐く人間はこの学校にいない今、小田は注目の的だ。


「ひどい!皆さん聞きました?」

そう言いながら涙目で訴える鹿島杏奈だったが、






「きゃあ!!!!!!」

「知らねぇよ。自分でやれよ」

愁が蹴った。




いや、全然本気ではなかったが、周りは騒然。床に手をついている鹿島杏奈も呆然としている。

「え、なに、ひどい、なんで?」

蹴った本人は素知らぬ顔。せめてそのあとの対応もしてやれよ、と思うが、この女に慈悲なんぞいらないか。


さて、今からのこの状況。どうするかな。

というか、肝心のお転婆娘はどこに行ったのだ。




そう思っていると、

「きゃあ…ああ……!」
「人が………る……ぞ!!」
「……さん……だ……!」


向こうの方で悲鳴が聞こえる。

「なに?なんか悲鳴聞こえない?」

「思った」

夕の言葉に頷き、悲鳴のする方へ目を向けるが、その悲鳴はどんどん近づいてきているようだ。

まさか。

いや、そんなことはない。

そんなはずないだろう。

どうせ誰かがまた喧嘩してるんだ。

そう言い聞かせるが、何故だか胸がザワザワする。認めろ、と言わんばかりに。


さっきまで交戦状態だった鹿島杏奈も小田も、悲鳴のする方へと目を向けているが、小田はもう気づいているようだった。


「おー、あれは」

悠長にそう言いながら目を凝らす愁は、口元の笑みを抑えきれていない様子。



ズル……

ズルズル……