「あれ?律ちゃん?」
言霊とでも言うのだろうか。こんなにも予想通りに現れてくれると、逆に笑ってしまう。
「どうも」
全学年が通る1階のロビー。
ハニーピンクの髪の毛を靡かせながら、か弱そうな女の子が歩いてくる。
今日は取り巻きの女たちはいないみたいだ。
そりゃそうか。取り巻きがいたら話したい話もできない。
ニコリと笑って挨拶をすると、鹿島杏奈の顔は強ばった。
確信した。
やっぱり昨日のことはまだ聞いてないんだ。
がしかし、私にはしっかりと跡が残っている。
「おはよう。それ、口の端どうしたの?」
ほら、含み笑いに変わった。
「これ?ちょっとね」
「痛そう。誰かに殴られたの?」
「なんでそう思うの?」
「じゃないとそんな傷できないかなって思っただけだよ」
鹿島杏奈は表情を崩さない。が、私たちが奴らに襲われたことは確信したみたいだ。
「まぁ、正直に言うとそうなんだけどね。その上愁さんに噛まれそうになって大変だったよ〜」
ほんとは舐められそうになったんだけどな。
ケロリとした顔でそう言うと、鹿島杏奈の余裕そうな顔が少しとけてきた。
「噛まれ…?愁さんに?なんで?」
「昨日、どこかの暴走族に攫われちゃって」
「へぇ」
「だけどすぐ天の全員が助けに来てくれて、なぁんにもされなかったんだけど、ね」
「大変だったね」
失敗。
その2文字が頭に浮かんでいるはずだ。
本当に襲われたならば『その傷どうしたの?』なんて聞かれたら口篭るはず。そもそも学校も休むだろう。
しかし、私も小田も元気に学校に来てるし、傷のことを聞かれてもケロッとしている。そりゃ失敗だと思うだろう。
まぁ、小田は今日休みたいだのなんだの言ってたから無理やり来させたんだけどな。
襲われた、と少しでも思われれば、どんな噂を流されるか分からない。風評被害甚だしい。
でも、頭脳戦とやらももう終わりだ。
「まぁ、誰が仕掛けたなんて全部知ってるんだけどね」
笑顔を引っ込め、真顔で淡々とそう言うと、鹿島杏奈はピクリと口角を動かす。
「誰が?何を言ってるの?」
「証拠が見つかったの。しかもその暴走族、天を落とすために私たちを攫ったみたいで、天も相当怒ってるんだよね」
証拠なんて嘘だけど。
パリパリと、少しずつ奴の仮面が剥がれていく。
「証拠?なんの?」
ほら、焦っちゃってるよ。
バレちゃうよ。
隠さないと。
「それ、あなたに関係ある?もしかして、鹿島さんが彼らをけしかけた、とか?」
もう分かっているのだろう。私にバレているということを。
「そんなわけないじゃない」
「だよね。今日のお昼、天のみんなに証拠を見せようと思うの」
さぁ、天罰がくだる。
「そう」
もう少し、踊ってね?
