狂気のお姫様

【side 小田奏見】

「あ、ここで」

「了解ー」


見慣れた街並みに、蘭くんに声をかけると、ゆっくりと止まってくれた。

蘭くんに支えられながらバイクから降り、ヘルメットに手をかける。

「ありがとね」

「いえいえー。大丈夫だった?バイク」

「はじめて乗った。超怖かった」

「まじか」

「でも蘭くん、安全運転だったから大丈夫だったよ」

「お、良かった良かった」

ヘルメットを返すと、蘭くんは優しく微笑みながらそれを受け取る。


「心、まだ瀕死?」

「相当瀕死」

「やっぱパフェかー」


蘭くんはいい友達だと思う。東堂も。

ズカズカと人の気持ちに踏み込んでこないし、聞かれて嫌なことを聞いてこない。


「送るの、家までじゃなくていいの?」

「いいの。ちょっと歩きたい」

少し、頭の整理をしたいんだ。

そう言うと、私の頭に蘭くんの手がポンッと乗る。


「泣く?俺いない方がいい?」

彼は優しい。

「泣く。めっちゃ泣く。マジ泣きする」

今だって涙を堪えるのに必死だ。

心がやられているとき、人から優しくされると涙が出てしまうものだから。

本当は誰かに縋りたいのかもしれない。


でも。


「でも、1人で泣きたい」

今は、1人がいいんだ。



「ありがと蘭くん」

「いーえ。気をつけてね」

「うん」


明日になったらきっと、元気になるはず。

またいつもの私に戻るはず。


「じゃまた明日ねー」

蘭くんはそう言うと、私の頭から手を離し、行ってしまった。





「あー」

今日は疲れた。本当に疲れた。

いろいろなことが、感情が一気に押し寄せてきて、心の中なんてぐちゃぐちゃで、どうしようもない気持ちでいっぱいになる。




好きだった。

すごく好きだった。


「好き…だったなぁ…」

言葉にすると『好きだった』という文字が頭の中にこだまして、鼻の奥がツンとする。


思い出すのはあのバカ彼氏。

バカなのは知ってた。

でも、優しかった。

それでも、好きだった。