狂気のお姫様


「あ、終わったかなー」

そんな話の中、間の抜けた蘭の言葉で、小田の方に視線を向ける。

蘭って本当に独特なオーラを持ってるっていうか、こいつもこいつで自由人だよな。


小田は彼氏と話が終わったのか、彼氏に手を振ると、こちらに戻ってきた。


「おかえりかなみん」

「うん」

こういう時、蘭の声色は優しいなと思う。


誰も何も発しない中、

「別れてきちゃった」

そう言った小田の顔は、意外と穏やかだった。



「え!小田ちゃん別れたの?やっぱり彼氏がバカだったから?」

佐々木夕お前本当に通常運転だな。

「バカは前から分かってたんですけどね…ははは」

小田は顔を引き攣らせながら笑う。

そして『東堂てめぇ言ったなコノヤロウ』という顔をしている。それはすまん。



しかし、

腑に落ちないのは、何故だろう。

小田はこんなに穏やかな表情をしているのに、私がこんなにも腑に落ちないのは、何故だろう。



そうか。

「小田、いいのか?」

「うん。いいんだよ。もう」

「そうじゃなくて」

「?」

「あいつに一発お見舞しなくていいのかって聞いてんだよ」

小田の顔がスッキリしてないからだ。

「お前は鬼か」

「今しかチャンスはないんだぞ!!!」

「熱がすごい」

「だって腹立つだろ。鹿島杏奈に引っかかったわけじゃないにしろ、あいつのせいで危険な目に合わされたんだぞ」

「それはそうだけど…」

「はいそうですか、で許せるか?」

「いや許せない」



本意でも不本意でも、やられたらやり返す。

「私、行ってくる」

「おう殺って来い」


そう言うと、小田は彼氏、いや、元彼の後ろ姿を追いかける。

急に走り出した小田に、他の人たちは首を傾げている。


「慶太!!!!」

小田が元彼の名を呼ぶと、彼はこちらを振り向く。

が、

その瞬間小田は宙を舞った。


「テメェこの野郎!!!!!!!」

「グェッ!!!!!」


もしこれが映画ならば、今この瞬間がスローモーションになっていることだろう。

それはそれは、ものすごく綺麗に飛び蹴りが決まった。

正直、拍手喝采である。

小田の元彼は、思ってもみなかった攻撃に、その顔面を土にぶつける。


「小田!!よくやった!!!!」

嬉々とした声を上げ、拍手をしているのは、私と長谷川蓮のみ。

「お、小田ちゃん、律ちゃん化してない?」

あとの人たちの顔が引きつっていたなんて、私は知らぬが仏だ。