狂気のお姫様


「え」

急に頬に手が添えられ、口の端にピリッと痛みが走った。

そういえば…

「殴られたんだった」

完全に忘れてたな、と思いながらそう言うと、

「殴られた…?」

あれ、目の前に魔王がいるのは錯覚?

「誰に」

「あ、えと、あの紺色頭…です」

喧嘩の渦中にいる仙道を指さすと、信じられない量の殺気が愁さんから放たれる。

待って。本当に怖いんだけど。

さっきのほんわか空気、どこいった?

「痛い?」

「痛いですけど…、舐めときゃ治ると思います」

「そ」

傷って、思い出したら痛みが襲ってくるよね。あの現象は不思議だ。

そういえば、私と小田の携帯、殴られたときにあいつにとられたんだった。取り返さないと。携帯は女子高生の命だからね。

あいつには一発お見舞いしとかないと気が済まないな、と思いながら、仙道に標的を決めるが…、

何故か私の頬から愁さんの手が一向に離れない。



「なんですか」

「律さー、一応女の子だから傷作っちゃダメだよ」

「一応て」

お家柄、体に傷がつくことも少なくはないのでそんなに気にしてはいないのだが、痕が残るってなったら嫌なので気をつけないといけないよな。


…じゃなくて、早く離してくれないかな。



「…」

「え」

え、え、待って。

心做しか愁さんの顔が近づいてきてるよう…な…

「ちょーっと待ったー!!!」

「んむっ」

すんでのところで愁さんの口を右手でバチッと覆う。

「なに」

「いやそれはこっちのセリフですよ!!!」

私に口を覆われた愁さんはもごもごと話すが、「なに」じゃないよ!!!あんた今何しようとしてた!!!

「律が舐めときゃ治るって言うから」

「…」

「…」

「…」

「…」

「自分でね!!!!!!」


バカか!!バカなのかこの人は!!

なんであんたが私の口元を舐めるんだよ!!

一歩間違ったらキスだよ!!!

「えー」

「えー…じゃないですよ!!!」

途轍もなく綺麗な顔がこんな近くにあるこの状況がやばくて、自分でも顔が赤くなるのが分かる。


「想像した?」

「言ってる場合か!!」

今あんたの周りでは殴り合いが勃発してるところなんだよ。分かってる???バカなの???

「いやいや、さすがに綺麗な顔がこんな近くにあったら恥ずかしいですから!!」

「律、俺の顔好きなの?」

どうしてそこに話がぶっ飛ぶ。

「なんでそうなるんですか」

「好きなの?」

「好きか嫌いかで言われたら好きですけど」

こんな造形美の顔なかなかないしな。

「ふぅん」

なんだその勝ち誇った顔は。

ていうか、言ってる場合じゃないんだってば!!!

「愁!!何サボってんだテメェ!!」

ほら見ろ!!!!!