狂気のお姫様

こういう時、本業と違うのは、五感を奪わないところだと思う。

本業ならば、意識をなくしたうえで、拘束、目隠し、口にガムテープ、ぐらいはしているだろう。それに、もっと人の目につかないところで攫うだろう。

と、こんなことを冷静に考えている私は、本当に拉致されることに向いていない。いや、逆に向いているのか。


抜け道の先にとめられている車に乗せられ、チラリと小田を見ると、顔面蒼白で震えている。

まぁ…普通に生きてりゃ、こんな不良たちに誘拐されるなんてことないもんな。

陽ちゃんに送信できずじまいの私の携帯はポケットにあるが、ここで出すわけにはいかないし、とりあえず連れて行かれるしかないか。


「これで天を潰せるのかよ」

「知らねぇけどー、あの女が言ってたんだろ?」


あの女?

車という密室で、下手に何かを言うと襲われかねないのでずっと黙っているが、男たちの会話にピクリと反応してしまう。


あの女…まさか…、と思いながら小田を見ると、バチッと目が合った。


あぁ、やはりか。



つまりだ。

私たちを、というか、私を拉致すれば『天に勝つ』とこいつらを唆したのだろう。

なるほど合点がいった。

どういった経緯で彼らと知り合ったかは分からないが、私をおびき寄せるために小田の彼氏を使った、といったところか。



はぁ。頭の中は冷静なのだが、よくよく考えてみれば普通にやばい。

小田は逃げ足は信じられないほどはやいけど、体術に至っては最悪。むしろマイナスレベル。今から連れていかれるところがどこかは分からないが、無事に帰れるか微妙なところだ。


どうにか…、どうにか陽ちゃんと連絡がとれれば。






そして、連れて来られたのは薄暗い倉庫。


「…東堂」

私の右腕をそっと掴んだ小田は、もはや気が気ではない様子。


「上の階だ」

仙道がそう言うと、周りの男たちに腕を捕まれ歩かされる。

別に歩かないなんて言ってないんだから掴まないでほしいんだけどな。


倉庫の中には、想像以上に人がいて、100はいっている気がする。西城の制服を着ているものもいれば、私服のものもいるので、全員が全員高校生というわけでもないのだろう。

ただ、頭の悪そうな不良だというところは全員合致しているが。



「拘束しとけ」

「はい!」


上の階は意外と広くて、少し安心する。

あんまり狭いと、人数で押し込まれて手も足もでないからね。


「座ってろ」


後ろで手を結束バンドで拘束され、小田と2人床に座らされる。

あー。制服汚れちゃうよ。クリーニング代は請求するからな。



「おい。人数もっと手配できねぇのか」

「声はかけたんすけど…結構急だったので…」

「チッ…使えねぇな…」

「でももう少しでほぼ全員揃いますよ」

「ま…全員揃っても揃ってなくてもあいつらは殺られる運命だけどな」


そう言い、ニヒルに笑う仙道は、勝利を確信しているみたいだ。