狂気のお姫様


今声を出したのは小田である。




「おせぇな」

真ん中にいる男がそう呟くと、小田の彼氏が素早く頭を下げた。

「す、すいません!」




小田も状況を飲み込めていないのだろう、動揺が見てとれる。


「どういうこと?」

聞いたのは私だ。

周りを確認すると、人気が少ない大通りへの抜け道。そりゃ怪しまないか。こんな道通る人なんてたくさんいる。

ただ、今はこの男たち…いや、西城の男たちで占めているので他の人は通らないだろうが。


「ごめんね。あ、お茶するのは本当だよ。ただその前に、仙道さんが話したいことがあるって言うから」


仙道とは、先程口を開いたこの男だろう。

深い紺色の髪に、着崩した制服、周りの反応、そしてオーラ的に、西城の重要ポジション…いや、トップか…。


しかしだ。西城のトップが私に何の用だ。

いや待てよ。西城と言えば、天を邪険に思っている奴らばかり。その天と仲の良い私…。まさか…。

しかも西城のガラの悪さは城ヶ崎よりもすごい。大半が族に入っている…とすれば、さっき陽ちゃんから言われた『空郭』って…。


まさか…。嘘でしょ…。

自分の考えを信じたくはないが、もはや名推理すぎて泣けてくる。



「待って慶太。私たちこの人たち知らない…」

「え、そうなのか?でも、話を聞くだけだって言ってたから大丈夫だよ」


そう言った小田の彼氏のあほ面に強烈な一発をお見舞いしてやりたい気持ちになったのは今は抑えておこう。


「それにな、今度俺、チームに入れてもらえるかもしれないんだよな。奏見からしたら怖く見えるかもしれないけど、話だけって言ってるし安心してよ」

こいつは、何を言ってるんだ?

アホなのか?アホなのだろう。


そしてハッと気づいた。


初見でこいつのことを掴めない奴だなと思ったのは、こいつがただ単にアホだったからだと。そりゃアホの行動は読めないわ。



小田の顔は驚愕そのもの。

だって、話だけならこんな大人数寄越す必要なんてないだろう。

そもそも『話すだけだから』なんて言葉、ドラマで信用していけない言葉ランキング上位に入るレベルのセリフだぞ。


「小田…お前の彼氏…」

ボソッと小田に声をかけると、

「HAHAHA…バカで可愛いでしょ…」

白目剥いてやがる。


あーくそ。私一人なら逃げられるけど、小田と一緒に逃げるのは難しいだろう。それにここは狭い、戦うにしても守りながらは不可能だ。


「じゃあ、ちょっと来てもらおうか」

仙道とやらがニヤつきながら腰を上げる。

稀に見る悪役顔だな、なんて思っていると、


「え、話聞くだけじゃないんですか?」

アホの男が…いや、小田の彼氏が少し焦りを見せる。

「は?あー、そいつもう用済みだからいいぞ」

「え、なに…ヴッ!!!!!!」

「慶太!!!」


コテコテな展開に思わず頭を抱えるところだった。

私たちを連れてくるという任務、いやパシリを果たしたバカな男、慶太は雑魚キャラに一発で倒され、私たちはどこかへドナドナされるのだ。

あー。今日見たいドラマあったのに。