狂気のお姫様


「あとで来るらしいですよ」

スピーカーにしているので陽ちゃんの声は彼らにも聞こえているが、一応同じことを伝えてみる。


「はぁ?テメェこいつがどうなってもいいのか!!」

ドラマみたいなセリフだなぁ。

陽ちゃんの返答が予想外だったのか、声を荒らげる男たち。

しょうがないよ。絶対来ないよ。

私が拉致されたのだって、わざとだと分かってるはずだし。


《あ、愁とか暇なんじゃね》

《あ?》


あちらもスピーカーにしたのか、愁さんの声が聞こえてくる。そこにいたのか。彼らの本命は愁さんなので、彼らにとっては好都合だろう。


《なんかなー、律が拉致られたってよー》

《へぇ》


「…」

「…」


『へぇ』ときたか!!!!!

さすがに興味なさすぎない!?

一応拉致られてはいるんだけど。


目の前の男たちは驚愕の顔。怒りでか驚きでかは分からないが携帯を持つ手がわなわなと震えている。


「てめぇ!!!この女がどうなってもいいのか!!!」

《あ、夕お前今ババひいたろ》

《はぁ!?なんでだよ!ひ、ひいてねぇよ!!》

《ひいた顔してんぞ》

《愁ちゃん嫌い!!!》



「…」

「…」

無視!!!!!!!!!!!!!!!

すごい。流れるような無視だ。


《あ、律とまだ繋がってる?》

《繋がってるぞー》

《律、アイス買ってきて。チョコがいい》



おつかい頼まれた!!!!!!!

この人たちなんなの?私のこと心配しなさすぎじゃない?いやいいけどさ。ちょっとは『大丈夫か?』くらいあってもいいんじゃないかと。

まぁこんな相手に心配されるようじゃまだまだか。


「ふざっけんなよ…」

目の前の男は怒っているようだが、私がこんな埃まみれの場所にずっといる義理もない。拉致ごっこも飽きたところでそろそろ退散としますか。

幸い私に敵意を剥き出しにしているわけじゃないし、この獲物は愁さんにまるっとあげたいと思うので手は出さないでいてやろう。アイスは買わないがな。


「ふざけんなよ!!!!!!」

「じゃあ帰ります」と、たった一言そう言おうとした瞬間、全てがスローモーションのように感じた。



バキッ!!!

大きな音と共に地面に叩きつけられたそれ、私の、携帯。

瞬時に理解したと同時に、一瞬で頭に血が上るのが分かる。



「人の携帯に何してくれてんだテメェ!!!!」



「ヴッ!!!!」

ガンッ!!

思わず目の前の男を力いっぱい蹴り飛ばすと、その大柄な体は倉庫の壁に跳ね返り、私の携帯同様地面に叩きつけられた。

「携帯は女子高生の命だぞ!!!!」

絶対に許さない。