狂気のお姫様

【side 四ツ谷鳴】


「握り潰しますよ」

さっきまで頬を赤らめて照れていた女の子は、すぐに無表情になり、至極物騒なことを言いながらグッと顔の横で拳をつくる。


「律ちゃんになら、何されても…」

とふざけると、

「…」

もう無視である。


それどころか、早く乾かせよ、と頭を突き出してくる始末。

猫みたいだな、なんて思いながら「はいはい」とまたドライヤーを再開。今日の彼女は相当イライラしてるのか、いつもより言葉が砕けていて、いつもより態度も悪くて、少し横暴。

そんなところも可愛いと思ってしまうのは、この子が本当に素だからだろう。

そして、単純にそんなところを自分に見せてくれるようになったのが嬉しいという気持ちもある。


「ん、終わったよ」

「…ありがとうございます」


さて、濡れ鼠状態の律ちゃんを回収したわけだが、やっぱさすがに服が濡れたままだと風邪ひくよなぁ。

自分のカーディガンを着て暖をとっている律ちゃんに萌えつつ、どうしたものかと思案。



「この靴も汚いし」

ポイポイッとローファーを脱ぎ捨てる律ちゃんは、靴下にも手をかける。


「ちょちょ、お姉さん、靴下も脱ぐんすか」

「濡れてるし。気持ち悪いし。膝から下は汚いもん」

「どういうこと」

可愛いと思ってる子の生脚を見るとなると、さすがの俺でも理性が大暴れするかもしれないぞ、と思いつつ聞いてみるも、返ってきたのはただの珍回答。


「汚い水かぶったんですよ」

「?」

「トイレで」

なんとなく読めてきた。

「傘さしてたんですけど」

やっぱ読めないわ。

彼女の思考を理解することは早々に諦め、フル回転しかけた脳みそを鎮める。



「なんでトイレで傘」

「情報収集で、今日何かあることは分かってたんで一応。トイレと言えば水攻めでしょ」

「あー」

「1人で個室で傘さして水浴びる私のシュールさ」

「ごめん笑う」

「でも小さめの傘だったんで、もれなく膝から下はびしょ濡れ」

「なるほどね。え、じゃあなんで頭から水かぶってんの」


そう聞いた瞬間、ムスーッと律ちゃんの顔が曇ったのが分かった。



「気の赴くままに女の頭を洗面台に叩きつけたら蛇口が壊れたんです」

「いろいろ突っ込みたい」


女の頭を洗面台に叩きつけるのにも突っ込みたいし、勢い余って蛇口が壊れるのにも突っ込みたい。ていうかどれだけ強い力で叩きつけたらそんなことが起きるのか。

陽介からいろいろ聞いて、人間離れしてると思ってたが、いざ本人から聞くとやはりすごい。



「だから怒ってんのね」

「そう」

「やり返したの?そのー、女たち」

「死んではないでしょ」


ケロッとした顔で「ま、顔見ても誰か分からないぐらいにはぐちゃぐちゃですけど」と言い放つ律ちゃんはゾッとするほど感情がなくて、敵に回したくないな、と本能で思う。