「律」
「?」
ふいに呼ばれ、片手でおいでおいでされる。
素直に羽賀愁が座っている長椅子に近づくと、
「なんです、うわっ」
咄嗟に手を引かれ、長椅子の上に座った。
が、
「どういう状況ですか」
「いい枕」
「脂肪がついてるとでも言いたいんですか」
何故か自分の太ももの上に、羽賀愁の頭。
なんだこの状況。どうなっている。夢か?そうか夢か。
「夢じゃないけど」
「ですよね」
「眠い」
「あ、左様ですか」
「…」
「…」
いや私枕じゃないんだけど。
太ももにあたる羽賀愁の髪は、奇抜な色に染められているにも関わらずふわふわで、この人完璧すぎて早死にするんじゃ…と少しだけ心配してしまう。
いや、そうじゃなくて。
この学校の王、いや、魔王を膝枕してるこの状況が理解できなさすぎて頭がパンクしそうだ。
「あのー、羽賀さん」
どうにか帰ろうと思案してみたものの、いい案がこれでもかというほど浮かび上がらない。
「羽賀さんて、なんか他人行儀」
いきなりなんだ。そりゃ他人ですからね。
「鳴のことは鳴さんって呼んでるのに」
「それはまぁ、思わぬところで親交があったので」
金髪タレ目に呼んでって言われたし、四ツ谷さん、というのもなかなか呼びにくかったからな。
「俺は?」
「え?」
「羽賀愁のまま?」
「や、やだなぁ。羽賀さんって呼んでるに決まってるじゃないですかぁ」
そんな、フルネームだなんて。そんなそんなぁ。苦し紛れに頭を掻くも、羽賀愁はあの日の失態を忘れてはくれないみたいだ。
「羽賀さんもやだ」
「えぇ」
やだって。やだって何。さすがに羽賀愁を親しげに呼んだりはできないんだけど。と思いつつ、陽ちゃんが言っていた通りそんなに大袈裟に言うほど怖い人ではないのだろう。今だって雰囲気柔らかいし。さっきは怖かったけど。
「えー…じゃあ羽賀たんとかにします?」
「バカなの?」
渾身のボケにも返してくれるし。
そう言いながら左手を口にあてて笑う羽賀愁の顔に思わずドキッとしてしまう。
「鳴と同じ呼び方にして」
「え、鳴さんでいいんですか?」
「そんなわけないでしょ」
だって同じ呼び方って言ったじゃん!!
「愁さん」
「それ」
羽賀愁、もとい愁さんはそれだけ言うと目を閉じた。
良かった良かった。魔王のお気に召したようで良かった。
それでだ。
だからこの状況どうしたらいいんだっつーの!!!
