狂気のお姫様

「鳴くんごめんね…」

すっかり正気に戻ったらしい直子さんは、ナイフをそっと懐にしまった。

「え、えっと?」

「全然私気づかなくて…」

「何を…?」

「大丈夫。誰にも言わないから…」


改心した様子の直子さんに、鳴さんはわけも分からず狼狽している。

さっきまでの演技はどうしたよ。私が一肌脱いでやったんだから合わせろよ。


「無理させて、本当にごめんなさい」


深々と頭を下げ直子さんは鳴さんに謝った。

これで本当の一件落着だ。うんうん感動だ。本当に良かった。1人分かってないけど。


「無理させて…?ん?どういうこと?」

本当に訳が分からないのだろう。今まで見たこともないような変な顔をして頷いた鳴さんに、ちょっと吹きそうになった。



「まさか…」

「まさか…?」

「まさか鳴くんが…そっちだったなんて」

「えぇぉおおい」


少し顔を赤らめながら斜め下を向く直子さんに、鳴さんも何を言いたいか悟った様子。


何言ってんだコノヤロウ、とでも言いたそうに私に視線を向けてくるが、そんなものは無視だ。


「私、応援してるから!!」

「え、あ、うん」

すごくすごく何か言いたげな微妙な表情で頷いた鳴さんは、どこか諦めた様子。

一方直子さんはというと、これから先何があっても何をしても鳴さんが自分のことを好きにならないと悟ってくれたらしく、どこか清々しい顔をしている。


「じゃあ、行くね。ごめんなさい今まで」

「いいよ…」

「元気でね、直子さん」

「あなたもね、律さん」


直子さんはそう言うと、小さく礼をして去っていった。

好きな人のためにここまで狂気的になるのは想像つかないけど、恋する乙女の行動力はすごいんだなぁとしみじみ思った。




「律ちゃん」

「あい」

「つかぬことを聞くが」

「なんでしょう」

「直子さんになんて言ったんすか」

「えー、別にそんな大したこと言ってないですよ〜」

「へー、気になるなぁ。すごく」

「ただ、ゲイだって言っただけです〜」


これは私の作戦勝ちですねっ、とウインクをすると、ガクゥっと膝から崩れ落ちた鳴さん。


「どうしたんですか?一件落着ですよ」

「俺の…イメージ」

「命とイメージどっちが大事なんですか」

「それはそうだけどさ…」


廊下に座ったままこちらを睨み、口をへの字に曲げる鳴さんはちょっと可愛い。というか、いつも私で遊んでる鳴さんをこんなふうにさせられたことに少しだけ優越感。


「俺はもっとアクティブな戦いが見たかったんだけど」

「何を求めてるんですか」

「ん?ストーカーvs怪獣的な」

誰が怪獣だよ。

「穏便に終わるにこしたことはないでしょうよ」

「律ちゃん破天荒じゃないときもあるんだね」

「いつも破天荒じゃないですけどね」


何故こんなにケチをつけられるんだ。1番いい方法だったじゃないか。

「まぁ…ありがとね…腑に落ちないけど」

まぁ、問題は1つ残っているけど。