狂気のお姫様

「ほら、お呼びですよ」

コソコソと、直子さんに聞こえないように鳴さんを小突いてみるが、なんと嫌そうな顔をしているのかこの男は。

「無理だってば。お化けじゃん」

「失礼な。ぎりぎりまだ人間ですって」

「それも失礼だけどね」

「はやく行ってくださいよ」



とりあえず彼女を落ち着かせようと、一歩前に出た鳴さんだったが、


「な、直子さん、だからね?」

「分かってるから!!!!」


あまりの声量に一歩戻ってきた。いや、戻ってくるなよ。



「な、何を…?」

「鳴くん騙されてるんでしょ!!その女に騙されてるんでしょ分かってるから!!私は分かってるから!!!!」

「いや、あの」

「名前だって嘘だったし顔に火傷の痕もないし大嘘つきの最低な女じゃない!!!大丈夫だからね!!私が守ってあげるから!!」

「いや今俺が律ちゃんに守られてる状況…」


やめろやめろ。茶々いれるなここで。


「妬かせようとしてるんでしょ??鳴くんそういうところあるよね??私だから許してあげられるんだよ??」

「え、俺そういうとこあるの?」

「遠回しにタラシってことじゃないですか」

「なにコソコソ話してるの!!!!!」


ひぇー。ストーカーまじで怖い。


「あのね直子さん、前も言ったけど…、俺本当にこの子と付き合ってるんだってば」


その設定まだ続いてたのかよ。

鳴さんが何を言っても無駄のようで、不健康そうな長い髪の毛を振り乱し、目をひん剥いている直子さん。


「嘘よ!!だって聞いたんだもの!!鳴くん騙されてるって!!」

ピクッ

「誰に?」


その言葉に反応したのは私だった。


「親切にしてくれた女の子がいたのぉ。可愛らしい女の子だったわぁ。鳴くんが悪い女に騙されてるって!!!助けてあげって!!」

「制服もその子が貸してくれたんですか?」

「そうよ???だってこうでもしないと鳴くんを助けてあげられないもの」


こないだ不法侵入してたやつがよく言うよ。


鳴さんと目を見合わせる。

あー、きっと鳴さんが今思ってる女の子と私が思ってるその子は一致するはずだ。そんな顔してる。


「直子さんそれ信じたの?」

お、いくのか?いくのか四ツ谷鳴。


「信じる?信じるも何も彼女は本当のことを言ってくれたのよ??」

飽くまでその例の女は本当のことを言っているのだと直子さんは言う。が、多分世界有数の嘘つきだと思うんだよなこれが。


「直子さん、俺がどの女の子にもキスしないの知ってるよね?」

え、そうなの?

「…そうね…。本命の私にでさえまだしてくれてないものね?だからこれから…」

「その俺がこの子にキスをした意味も分かるよね?」

「…」

「…」

「おいまじか」