狂気のお姫様


だがそんなことはどうでもいいらしい長谷川蓮は、必死に小田の行く手を阻む。


「待て小田、1回だけ待て」

「…………。はい1回待ちました。では」

「なんだと、短いぞ」


一瞬だけピタッと止まった小田に、「もうあと何回か待て」と訳の分からないことを言う長谷川蓮。なんだこのやり取り。小学生かよ。


永遠にカバディ状態の2人を佐々木夕と並んで見ている変な状況。


「いつからなんですか」

コソッと佐々木夕に聞く。

「俺が気づいたのは、小田ちゃんがシャーペン探してた時だけど、もっと前からだと思うよ」

「わお…そんな前から…」

「いやぁ、まさかだわ」

「まさかですね。あんなクズ女を」

「ねぇほんとに友達?」


訝しげに見られるが、あいつはクズだ。正真正銘のクズなのだ。


「小田の本性を分かってないんですよ」

「でも彼氏はいるんだよね」

「ゲテモノ好き」

「ねぇもう1回聞くけどほんとに友達?」


私と小田が友達か友達じゃないかなんて、どうでもいいのだ。『実はスイカは野菜だった』ぐらいにどうでもいい。

なんで小田に彼氏ができるのかは甚だ謎だ。人生の七不思議の1つになるぐらい謎だ。


「なんであれに彼氏ができるんですかね」

「どんな彼氏なの?」

「それが会ったことないんですよね。他校の先輩らしいので」

「蓮ちゃんカチコミに行くんじゃない?」

「何が彼をそこまで掻き立てる」

「愛ってすごいねぇ」

「愛が分からない……あんなクソみたいな女に…」

「俺はもう女の友情が分からない」


面食いな小田だが、冷たい女、且つ、自分の不利益になることは絶対しない女だ。顔が超絶イケメンの長谷川蓮でも、自分への被害を考慮すると、奴は避けるだろう。

ただその前に、長谷川蓮の脳みそがイカれすぎて対応不可能だ。


「分かった。ねり梅やるぞ」

「ねり梅は自分で買ってこそ美味しさが分かるんです」

「すまん…」

「いいんです。それは食べてください」

「梅すっぱいだろ…」

「え?」

「食べる…」


もうなんの会話なんだよ。


「蓮ちゃん回収するわ…」

「頼みます…」


会話を聞くだけでお疲れモードの佐々木夕に長谷川蓮をおまかせし、私は小田を回収。


しかし引き下がらないのがこの男、長谷川蓮なのである。


「小田…俺の方が強いぞ…」

「何がですか」

「な、何が…」

「何がですか」

「マ、マリカー…とか…」

「寝言は寝てから言ってください」


兎にも角にも長谷川蓮に害がこれっぽっちもないと分かった小田の手のひら返しはすごい。あんなに『天怖い!無理!』だった小田が、天に勝った瞬間だった。クズめ。