浅黄色の恋物語

 よくもまあマッサージなんて30年もやってきたもんだ。 自分でも驚く。
これしか無かったって言えばそうかもしれないなあ。
 本当は調理師になりたかった。 見えなくなって諦めた。
そしてスタジオミュージシャンに憧れた。
 でもかなりの腕を持ってないと聞いてさえくれない。
夢は夢だけで終わってしまった。 悔しかったなあ。
 そして母さんにも言われてマッサージ師になった。
掌サイズの免許証を見た時、(これが俺の未来なんだな。)って思った。

 学生時代、クラスメートには[ただ一緒に居るだけ]の存在に見られていた。
ぼく以外は『都会』の人間だったから。
 何となく弾かれてるのは分かってたよ。 だから深い付き合いはしなかった。
そのことには今でも心残りは無いなあ。
 仲良し連中が毎週飲み会をやってたのも知ってるよ。
一度として誘われたことは無い。 誘ってほしいとも思わなかった。
 理療課の2年も三学期になると白衣を着て実習に出る。
でもさあ、いい思い出って無いんだよなあ。
 毎週土曜日になると決まってぼくが洗濯登板になってたし、治療を任された患者さんをいきなり取られたり、
誰も来ない日には「普段から頑張らないお前になんか患者さんは来ないんだよーーーー。」って笑われたり、、、。
 治療中に同級生が割り込んできて勝手に治療をしていったり、、、。
 敢えてその場での抗議はしなかったよ。 施術室が荒れるからね。
我慢してこれまで誰にも話さなかったんだ。
 ここで荒れるよりは未来に勝ってやろうと思ってさ。
その通りにぼくはやってきた。
師匠もそのことを知ってるよ きっと。
 ぼくは鍼で人を救う使命を持っていたんだね。
この世に生まれてくる以上は何某かの使命を持ってるんだよ。
 今は真冬のように厳しいかもしれない。 砂漠のように何も出てこないかもしれない。
だけどきっと芽は出てくるんだ。 今じゃないだけだよ。 ぼくだってこの仕事に飛び込むまでに4年掛かったんだ。 それまでは何も無かった。
 一つのきっかけで人生なんて予想しないくらいに大きく変わるもんだ。
それがいつかは誰にも分からない。 誰にも分からないから不安になる。
そこで縮こまるか立ち上がるか、、、それだけなんだよ。
分かるかなあ? そこのお兄さんたち。

 そりゃあ人間だからいろんなことが起きるよ。
生まれたくても生まれられなかった人たちも数え切れないくらい居るはず。
 その人たちが安心して生まれてこれるように社会を作ろうじゃないか。