Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「お前の舌は辛さを感じないのか?辛いと一言も言っていなかったが」

「翡翠の体の舌は正常だぞ。ただ、辛さが思っていたよりも物足りなかっただけだ」

サラリと答えたアノニマスに対し、紫月の体に寒気が走る。紫月があのラーメンを一口でも食べたなら、今頃舌は焼けてしまったかと思うほど痛みを発しているだろう。

アノニマスは鼻歌を歌いながら歩いている。紫月の知らない歌だ。しかし、心地よい歌だと紫月は目を細める。気が付けば紫月はアノニマスの手を掴んでいた。

「太宰?」

アノニマスが顔を上げる。紫月の顔に熱が集まった。慌てて手を離し、紫月は「カラオケ!」と咄嗟に思い付いた言葉を口にする。

「よかったら、今からカラオケ行かないか?」

「カラオケ?」

アノニマスは首を傾げる。その反応の仕方に紫月はもしやと思ったことを訊ねた。

「カラオケを知らないのか?」

「そ、そんなわけないだろう!名前くらいは知っている!ただ行ったことがないだけだ!」