Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「徳富は一階の角部屋に住んでいるんだったな」

優我の言葉に智也が隣で頷く。二人は今、狩りを行なう猛獣のように目をぎらつかせている。その四つの目は、小百合の自宅から一瞬足りとも離れることはない。

「今のところ、徳富の家に宅配便は来ていないな」

「まあ、今日送られてくるとは限らないだろう」

十月の涼しくなった風が二人の間を通り抜ける。優我は自身の拳を握り締めた。警察の花形とも呼ばれる捜査一課の威信にかけて、必ずこの事件を解決しなくてはならない。そんな決意に燃える彼の頭には、ある男の顔があった。

(あいつに事件を解決させるわけにはいかねぇ!こいつはあいつみたいな落ちこぼれじゃねぇんだよ!)

優我の頭に浮かんだのは、警察学校に通っていた頃から気に食わない紫月だった。捜査一課から窓際部署に追い出されたというのに、共に追い出された後輩と事件を嗅ぎ付けては引っ掻き回してくる。優我の額に思い出すだけで青筋が浮かんでくる存在だ。