Anonymous〜この世界にいない君へ〜

クラシックロリータを着こなしているアノニマスの隣では、パンツスーツ姿の女性の姿があった。翡翠の叔母の千秋である。

(相変わらず姪っ子にベッタリだな。中身は翡翠じゃなくてアノニマスなんだが)

声をかけたいところだが、千秋がいると面倒くさいことになると紫月は判断してその場を去ろうとした。しかしアノニマスが駆け出し、「太宰刑事!」と紫月の腕を掴んだ。

「えっ!?アノ……翡翠さん!?」

アノニマスといってしまいそうになり、慌てて紫月は言い直す。翡翠を演じるアノニマスは、上目遣いで紫月を必死に見上げている。紫月の顔に一瞬にして熱が集まり、胸が高鳴っていった。

「お願いがあるんです。買い物に付き合ってくれませんか?」

「買い物?」

「好きなロリータブランドから新作が出たので見に行こうとしていたのですが、叔母さんに捕まってしまって……」

アノニマスがチラリと後ろの方を見る。紫月がその視線を追うと、般若のような顔をした千秋が腕組みをしていた。紫月の背中に寒気が走る。