Anonymous〜この世界にいない君へ〜

男が最期に見たものは、部屋と自身を吹き飛ばしながら焼き尽くす炎だった。男の目には、その炎は罪を犯し続けた自分を地獄へと引き摺り込む手のように見えた。



2022年 10月7日 東京都目黒区 午前十時

紫月と蓮が現場に到着した際、すでにアパートには規制線が張られ、捜査員が多く出入りしていた。アパートの二階部分は焼け焦げ、吹き飛んでいる。

「これは酷いな……」

「はい。このアパートに住んでいる大半の人が被害を受けたみたいです」

紫月と蓮は話しながらアパートへと近付く。アパートの規制線の周りには野次馬が集まり、スマホのカメラを向けている者もいた。野次馬たちの話し声が耳に届く。

「また爆発?」

「最近多くね?」

その言葉に紫月の足が一瞬止まる。彼らの言う通りだった。ここ最近、東京では宅配物に見せかけて爆弾を送り付ける事件が多発している。十月に入ってから、今回で五件目だ。

「太宰さん?」

蓮が足を止めた紫月の方を見る。紫月はハッと顔を上げ、「何でもない。行くぞ」と声をかけた。後輩の前では冷静でありたいと思いつつも、紫月の頭の中はここ最近起きている多くの事件でパンクしてしまいそうになっていた。