Anonymous〜この世界にいない君へ〜

修二が捜査一課へ向かった後、紫月は「少しタバコを吸ってくる」と蓮に声をかけて警視庁の外へと出た。外の蒸し暑い空気に包まれる中、紫月はスマホを取り出してアノニマスに電話をかける。

『何だ?』

アノニマスはすぐに電話に出た。その声は、この突然の電話に呆れているのか、それとも歓迎しているのか、今の紫月にはわからない。

「すまない。事件の相談などではないんだ。……ただ、お前の声を聞きたかった」

『何だそれは。あたしはお前の恋人か?』

アノニマスがフフッとスマホの向こうで笑う。紫月の胸が切なく痛んだ。その言葉は、彼女の中であの夜のキスや告白は無かったことにされているということだからだ。

『事件解決お疲れ様』

アノニマスの優しい声に紫月の心が癒やされていく気がした。アノニマスがどう思っていても、やはり自分は彼女を好きなのだとわかってしまう。

(ああ、直接会いたいな……)

そんな紫月の心を見透かしたように、アノニマスはあることを提案した。

『今日の夜、時間あるか?よければ本格四川料理屋に付き合ってほしいのだが』

「行くならこの前のような夜カフェか、辛いものがないであろうレストランにしてくれ」

紫月の顔にようやく笑みが戻った。