Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「楽しかったよ。娘が行きたいと話していた場所を妻と回ったんだ。まるで娘が生きて一緒に旅行しているような気がしたよ……」

修二は紙袋を見つめる。そして、この紙袋の中の化粧品は娘のために買ったものなのだと話した。

「アメリカでしか販売されていない商品らしい。娘が生きていたら、こんな化粧品を使う大人になっていたのかなって思ってね。つい買ってしまったんだ」

紙袋の中身を修二は見せてくれた。まるで宝石のように美しいアイシャドウやリップグロスなどが出てくる。蓮が「綺麗ですね」と呟くように言った。

「化粧品は女性の美しさをさらに際立たせるものだよ。……あの子はどんな女性になっていたのかな」

そう話す修二の目は、亜美を亡くした義夫と重なった。紫月の胸に切なさが走る。何故か今、声を上げて泣きたくなってしまった。

(アノニマス!)

紫月の頭にあの日、快児に怒鳴ったアノニマスが浮かぶ。彼女は今、何をしているのだろうか。無性に声を聞きたくなる。