Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「亜美さんと夢野快児に接点はない。だが、もしも亜美さんが殺される間際までスマホを持っていたなら、何か手がかりを残しているんじゃないかと期待したんだ……」

紫月は拳を握り締める。このスマホに残されたデータだけが希望のように思えた。しかし、紫月の震える手にアノニマスが触れる。彼女の手の柔らかい感触に、紫月の胸がトクンと優しく鼓動を立てた。

「希望は、まだある。嘘をうまく利用すればいい。あいつらは頭が恐ろしいほどいいシリアルキラーじゃない」

真夜に聞こえないよう、アノニマスは小声で言う。その目は不適に細められ、口は吊り上がっていた。



数日後、紫月とアノニマスは夢野泰造と快児の自宅へと足を運んだ。立派な門の前では着物を着た佳奈が待っていた。紫月とアノニマスが車から降りると、「ようこそお越しくださいました」と深々と頭を下げる。事前にこの時間に来ることは泰造たちと約束をしてあった。

「ご案内致します」

そう言い、屋敷の中へ行こうとする佳奈を「あなたはここで待っていてください」とアノニマスが制した。今日の彼女は、ブローチのついた白いブラウスにグレーのコルセットをつけ、花が描かれた深い青のスカートを履いている。その目は一段と凛々しく見えた。