Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「手がかりですか……」

アノニマスが何かを考え込み始めた。その目は翡翠の優しいものではなく、アノニマスの警戒に満ちた目だった。

車内は静寂に包まれたまま、夜に染まった街を走っていく。誰も口を開かぬまま、目的のダムへと到着した。車を降り、懐中電灯の灯りを頼りに歩いて行く。しばらく歩くと真夜が「あったよ」と草むらを指差した。

「亜美さんのスマホだ!」

紫月は手袋をはめてスマホを拾い上げる。友達と撮ったプリクラが挟まれたスマホは、画面にヒビが入っているものの、電源ボタンを押すと起動した。中のデータは無事のようだ。

「犯人はスマホを持っているとまずいと思ったんでしょうね。だから処分しようとした。ですが、スマホについた自身の指紋を拭き取らないということはないでしょう」

アノニマスがスマホを見つめながら言う。スマホのホーム画面は、友達と教室で撮影したであろう写真だった。亜美も、友達も、みんな笑顔である。亜美はもう、こうして誰かに笑いかけることは永遠にない。