Anonymous〜この世界にいない君へ〜

紫月が呆れたように言い、蓮が門の横に取り付けられたインターホンを押す。すぐに『はい』と女性の声がした。紫月が泰造に話を聞きに来たことを告げると、女性は『お待ちしておりました。少々お待ちください』と言った。今日訪問することは事前に伝えてある。

門が開き、着物を着た若い女性が姿を見せた。彼女はこの家で使用人をしており、名前は友井佳奈(ともいかな)と言うそうだ。

「旦那様がお待ちです」

佳奈に案内され、長い廊下を歩いて行く。紫月が右側に目を向けると、そこには立派な日本庭園が広がっていた。どの木々も手入れが行き届いている。

「このお庭、綺麗ですよね。専属の庭師の方が定期的に来てくれているんです」

まるで紫月の心を見透かしたかのように佳奈が言う。アノニマスが訊ねた。

「あの、この家で使用人は友井さんだけなんですか?」

「はい。この家で暮らしているのは泰造様と一人息子である快児(かいじ)様のお二人だけですので、お仕事はそれほど忙しくないんです」