Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「感謝なんてありません。一日も早くこの事件が解決してほしいんです」

そう話すアノニマスは、深緑のロングドレスを着ていた。ブラウンのロングウィッグを被り、その上に黒いカチューシャをしている。その出で立ちは、警察の協力者というよりは警護されるお嬢様のようだ。

アノニマスは微笑んでいる。一見すると穏やかな表情だ。しかしその笑顔の裏にはどんな感情が隠されているのか、刑事になってそれなりになる紫月にすらわからない。

(不適な顔の方がアノニマスらしいな……)

そんなことを考えながら紫月はサービスエリアで買ったコーヒーに口をつける。砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーは、少し冷めてしまっていた。

二時間ほどかけて夢野泰造の自宅に着いた。立派な門のある和風の屋敷が目の前に建っている。蓮が「へぇ〜」と声を上げた。

「市議会議員ってお金持ちなんですね〜」

「馬鹿なこと言ってないでさっさとインターホンを押せ」