Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「綺麗だな……」

アノニマスはそう言い、歩き出す。その瞳が潤んでいるように紫月には見えたものの、口にはせずに隣に並んだ。

ゆっくりとイルミネーションを見た後、ツリーを紫月はアノニマスと共に見上げる。クリスマス当日はここはさらに人で賑わっているのだろう。

(今日、アノニマスと来れてよかったな……)

紫月がそう思った時だった。ツリーを見上げていたアノニマスが言う。

「太宰、あたしは消えることにした」

「は?」

アノニマスが言葉の意味を理解できていない紫月を見つめる。その目はイルミネーションの煌めきのように美しい。

「消えるってどういうことだ?」

数十秒後、なんとか言葉を口にした紫月にアノニマスは言った。

「お前も翡翠に意識が戻ったのを見ただろう?ここ最近、翡翠が心の殻を破って出てくるようになったんだ。これはいい兆しだ。翡翠にあたしはもう、必要ない。だからあたしは眠る。自然と翡翠の中から消えるのを待つことを決めた」

嫌だ。そんなこと言わないでくれ。そんな言葉が紫月の喉から出そうになり、それを堪える。アノニマスは泣き出してしまいそうな顔をしていた。