Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「イルミネーションってこんなにも綺麗なものなんだな」

アノニマスがポツリと呟くように言う。紫月は「じっくり見たことがないのか?」と訊ねると、彼女は首を縦に振った。

「翡翠を幸せにする、そのためだけに生きていたからな。自分の楽しみといえば激辛料理を食べることくらいだった」

「……なるほど」

アノニマスが目を輝かせて食べる料理たちを想像すると、紫月の舌がヒリヒリと痛む。彼はアノニマスに笑いかけた。

「イルミネーション、じっくり楽しもう。とてもツリーも綺麗だぞ。時間はたっぷりある」

紫月の言葉にアノニマスは笑った。しかし、それは人が返答に困っている時に見せる愛想笑いに見える。

「アノニマス?」

気になってしまい、紫月は声をかける。アノニマスはハッとしたように紫月の手を掴んだ。互いの冷たい手が重なる。紫月の胸が大きく音を立てる。

「い、行こう!」

アノニマスに手を引かれ、紫月は歩き出す。数分もしないうちに駅前に到着した。様々なオブジェがイルミネーションで飾られ、その中央には巨大なクリスマスツリーがある。それなりに人で賑わっていた。