Anonymous〜この世界にいない君へ〜

狼狽える翡翠は自身の手に気付いた。己の手が血に染まっている。部屋に大きな悲鳴が響いた。翡翠が叫ぶように言う。

「な、何!?何で私の手は血まみれなの!?どうして!?嫌!!」

パニックを起こしている。紫月は声をかけてあげたかったものの、呼吸をするだけで精一杯だった。すると翡翠はまた地面に倒れてしまった。

(アノニマス!!)

紫月に緊張が走ったものの、彼女の腹部はきちんと動いている。生きている。紫月が安堵していると、彼女が再び起き上がった。

「あたしは……」

そう呟いた彼女の目を見て、紫月はアノニマスだとわかった。それと同時にドタドタと階段を駆け上ってくる音が響く。その音が近付くにつれ、声も聞こえてきた。

「僕が先に行くから夏目さんは後ろ!!」

「いやいや危ないから!!一般人は後ろに……ていうか、この屋敷の外から出て!!」

その声に紫月はフッと笑ってしまいそうになった。ドアが壊れてしまうのではないかと思うほどの勢いで開き、二人がなだれ込むように部屋に入ってくる。