Anonymous〜この世界にいない君へ〜

アノニマスはそう呟くように言い、ナイフを振り上げる。紫月が「やめろ」と喉から声を絞り出し、千秋が断末魔のような声を上げた。その時だった。

アノニマスの瞳が突然閉じる。そして、まるで糸が切れたマリオネットのように地面に倒れた。何が起こっているのか、紫月はもちろん千秋にもわかっていない。

「ア、アノニマス……?」

紫月は床を這い、アノニマスの近くへとゆっくりと近付いていく。するとアノニマスの目が開かれた。ゆっくりと彼女は体を起こし、辺りを見回す。そして口を開いた。

「ここ、どこ?」

アノニマスの声だった。しかし、その言動は普段と違って子どもっぽさが端々にある。千秋が目を見開き、紫月も驚きを隠せなかった。

(今、アノニマスじゃなくて本物の翡翠が目の前にいるのか……)

アノニマスーーー否、翡翠は辺りを見回して驚いていた。怪我をした人間が二人もいるのだから当然だろう。

「だ、大丈夫ですか?血がいっぱい……。ど、どうしたら……」