Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「えいッ!」

千秋がわざとらしく笑った瞬間、紫月の足に強烈な痛みが走る。冷や汗が浮かぶ中、紫月が自身の足を見ると、足に刺さっていたナイフがさらに深く刺さっていた。千秋がナイフを蹴り付けたのだ。

「これ、痛いでしょ?楽にしてあげるわ」

千秋が笑いながらナイフを振り回す。紫月は必死に避けるものの、その動きは鈍い。ナイフが体を掠めて血が所々に滲んだ。

「クソッ……!」

紫月は荒い息をしながら拳銃を取り出す。そして千秋に向けた。もうこうするしか勝利は見えないと思ったのだ。

「ナイフを捨ててその場に跪け。撃つぞ」

「そうよね。拳銃くらい警察官なら持ってるわよね」

銃を向けられているというのに千秋は笑っているだけだった。強がっているわけではない。一ミリも恐怖を感じていないのだと、その目を見て紫月は直感する。

「狂っているな……」

「ええ。人を一人殺せば心なんてあっという間におかしくなるわ。童話みたいに残酷になれるの。こんな感じで」