Anonymous〜この世界にいない君へ〜

足が動かすたびに酷く痛む。しかし、ナイフを抜くわけにはいかない。紫月は必死に冷静さを保とうとした。パニックを起こせばそれだけで相手の思う壺だとわかっているからだ。

紫月は大きく息を吐く。そして千秋を睨み付けた。

「アノニマスを解放しろ」

「嫌よ。この女は処刑しなくちゃいけないの。それが社会のため」

千秋はナイフを紫月に向ける。その顔には笑みがあった。

「手負いの状態のあんたなんて簡単に殺せるわ」

「……知らないのか?手負いの獣は人間ごときに手がつけられない」

紫月と千秋は睨み合う。アノニマスが「太宰!!よせ!!」と真っ青な顔で叫んだ。彼の足からは血が滴り落ち、スーツを汚していく。血が流れたところは冷たくなりつつあった。

「そんな怪我で戦うなんて無茶だ!!お前は獣じゃなくて人間だろう!!」

アノニマスの目は本気で紫月を心配していた。彼の胸がこんな状況だというのに温かくなる。

(アノニマスは自分を「優しくない」と言うが、お前は優しいんだ)