Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「ッ!」

紫月の足に何かが当たる。足元を見た紫月は息を呑んだ。紫月の足元には線がピンと張られていた。まるで猟師が獲物を仕留めるために使う罠のようにーーー。

紫月の耳に風を切る音が聞こえた。



アノニマスは千秋と共に三階の一室にいた。この部屋はかつて女の子が使っていた部屋のようだ。埃まみれのカーテンは可愛らしい花柄で、部屋の隅には大きなテディベアが置かれ、部屋に置かれている家具も全て可愛らしいデザインである。

アノニマスは床に座らされていた。先ほど一人で監禁されていた時とは違い、拘束は手錠だけである。アノニマスは近くでナイフを見つめる千秋を見上げた。

「一つ聞きたいことがある」

「何?」

「何故、あたしを殺そうとする?あたしを殺せばこの体の本当の持ち主である翡翠も死ぬことになる。……あの子は優しくて臆病だ。どんなに苦しい状況だろうと、人を殺すなんて手段は思い付かない」

アノニマスの言葉に千秋は笑い声を上げた。不気味な高笑いが部屋中に響き渡る。