Anonymous〜この世界にいない君へ〜

煙が消えた後、紫月は真夜に言った。

「島崎、お前はここにいろ。家の中には絶対に入るなよ」

「えっ……」

納得していなさそうな真夜を置き、紫月は家のドアに手をかける。ホルスターから拳銃はすでに抜いてある。話し合っている時間などなかった。

「太宰さん!」

「夏目、拳銃は出しておけよ」

紫月はそれだけを言うとドアを勢いよく開け、拳銃を構えたまま中へと入る。部屋の中は埃が積もっており、実際に使用されていたと思われる家具がそのまま置かれていた。

部屋の中は驚くほど静まり返っている。人の気配を全く感じない。紫月の背中にゾワリとした寒気が走った。

(おかしい。確かに尾崎はこの家の中に入った。アノニマスもここにいるはず……)

どこかに必ず誰かいるはずだ。紫月が辺りを見回しながら歩いていたその時である。

パンッ!

乾いた音と共に紫月と蓮の間を何かが通り抜けていく。紫月が振り返ると、銃弾が古びた壁に小さな穴を開けていた。紫月の背中を冷たい汗が伝う。