Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「メルヘンチックなお家ですね。きっと大切にされてたんだろうな……」

「多分どこかの金持ちの別荘だったんじゃない?」

辺りを興味深そうに見回す蓮の隣で、真夜は興味なさげにあくびをしている。真夜はパソコンは持ち歩いているのだろう。しかし興味のあることしか彼は調べないタチなのだ。

紫月は空に視線を向ける。空の半分以上が薄闇に染まりつつある。しかし遠くにオレンジ色がまだ顔を見せていた。まだ日暮れではない。

「童話殺人犯!!時間通りに来たぞ!!いずーーーいや、アノニマスを返せ!!」

紫月がそう大声を上げた刹那、目の前の古びて壊れかけの木製のドアが軋んだ音を立てて開く。そして中から何者かが姿を見せた。ゴクリと蓮は唾を飲み込み、真夜は素早く蓮の背後に隠れる。紫月は腰に装着済みのホルスターに手をかけていた。

「あら。予定外のお客さんもいるのね」

そう言って姿を見せたのは、魔女を思わせる黒いローブを着た女ーーー尾崎千秋だった。紫月は「ああ、そういうことか」と納得してしまう。