Anonymous〜この世界にいない君へ〜

(まあ、人を監禁するのに人目のあるような場所は選ばないだろう。ここは山奥か?)

山奥ならば、どれだけ叫んだところで誰も助けに来ない。叫ぶだけ体力をただ消耗するだけなのだ。それをわかっているため、アノニマスはただ時間が過ぎるのを待っていた。

(尾崎は泉夫妻ではなく太宰にあたしの誘拐を教えた。太宰に教える目的は何だ?)

アノニマスが考えようとした刹那、ドアが軋んだ音を立てて開いた。そこにいたのは千秋ではなく外国人の男だった。男は無表情のままアノニマスに近付く。彼女の体に力が入った。

(こういう表情が読めない奴が一番怖いんだよな。尾崎のように感情を表してくれる方がこちらとしては動きやすいのだが……)

しかし、恐怖から目を逸らしてはならない。アノニマスは男を睨み付けた。男は表情を変えず、懐から巨大なナイフを取り出した。

(まさか、ここであたしを殺す気か!?)

身構えたアノニマスだったが、その心配は杞憂に終わった。男はアノニマスを柱に縛り付けていた縄を切っただけだった。