Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「太宰さん、何で山登るのにスーツと革靴なわけ?馬鹿じゃないの?そんなんじゃ動けるわけないじゃん」

呆れたような声に紫月が顔を上げると、ジャージ姿の真夜が腕を組んでいた。真夜は福岡にいると朝言っていたはずだ。紫月は目の前の光景が信じられなかった。

「島崎、お前福岡にいたんじゃ……」

「急いで帰って来たんですよ。太宰さん、突っ走ると周り見えなくなること多いですから」

真夜がため息を吐く。紫月が俯くと、「太宰さん……どいてください……」と苦しげな声が聞こえる。紫月は蓮を下敷きにしたままだった。

「夏目、すまない!」

慌てて紫月は立ち上がり、蓮に手を差し出す。顔やジャージを真っ黒に汚した蓮は、まるで荒ぶった紫月の心を落ち着かせるかのように優しく笑った。

「ありがとうございます、太宰さん!」

「いや、礼を言うのは俺の方だ」

一人で何も考えずに紫月はここまで来た。孤独に犯人と立ち向かうのだと思っていた。しかし味方が来てくれた。紫月の頭が落ち着いたことで冷静になっていく。