Anonymous〜この世界にいない君へ〜

目の前にいたのは翡翠の叔母である千秋だった。しかし、彼女にはいつものような優しい笑みはどこにもない。ただ冷たい目でアノニマスを見ている。その瞬間、アノニマスの顔から怯えが消えた。

「……あんた、翡翠の中にあたしがいることを知っているんだな?」

「ええ。そうよ。この人殺し」

千秋の手がアノニマスの髪を乱暴に掴む。しかし、アノニマスは痛みに顔を顰めることなく千秋を睨み付けた。

「お前が童話殺人事件のもう一人の犯人か。そして、太宰の尊敬していた芥川刑事を狙撃させた。狙撃手はあの三つ編みの男だろう」

「お見事。どちらも正解よ」

千秋が手を離す。アノニマスは彼女を睨み付けたまま続けた。

「あたしが誘拐されたことを誰に教えたんだ?泉夫妻じゃないだろう」

「そこも正解ね。本当、頭がいいって面倒ね。掌の上で転がせないもの」

「あたしは誰に教えたのかを訊いている」

アノニマスがそう言った刹那、パンッと乾いた音が響いた。数秒後、アノニマスの頰を血が伝っていく。